高周波誘電加熱技術

SUBJECT

高周波誘電加熱の原理

POINT

電子を激しく動かして内部から熱を発生させる

加熱する方法には、対象物の外側から熱を加える「外部加熱」と、対象物自体が発熱体となり、内部から熱を発生させる「内部加熱」の2種類あります。
「高周波誘電加熱」は内部加熱ですが、まずはわかりやすい「外部加熱」から説明していきます。

外部加熱とは?

外部加熱は、対象物に外部熱源から熱を加える方法で、お湯を沸かす、調理をするなど身近な加熱のほとんどが外部加熱です。熱の伝わり方によって「伝導・対流・放射」の3つの原理に分けられ、これを「熱移動の三原則」と呼んでいます。

伝導

熱が物質によって運ばれること。温度の高い方から低い方へ一方方向で伝わる。
(例:トースターでパンを焼く)

対流

温度差によって生まれる動き(流れ)によって熱が伝わる。温まると上昇する。
(例:風呂、湯を沸かす)

放射

熱が放射線(電磁波)によって運ばれる。物質を介して伝わるわけではない。
(例:ストーブ、日向ぼっこ)

内部加熱とは?

一方「内部加熱」とは、文字通り「内側から加熱する方法」で、電気を利用する方法と、磁気を利用する方法の2通りあります。前者を「高周波誘電加熱」、後者を「高周波誘導加熱」といい、本セクションで注目するのは、電気を使う「高周波誘電加熱」です。

これらの加熱方法を家電に例えて、内部加熱の原理については後述しますが、この加熱方法を家電に例えると
外部加熱=トースター 
内部加熱(高周波誘電加熱)=電子レンジ
内部加熱(高周波誘導加熱)=電磁調理器(IHクッキングヒーター)
をイメージするとわかりやすいかもしれません。

「高周波誘電加熱」の原理を理解するための4つのキーワード

  • 原子
    物質を構成する最小単位で、原子核と電子で構成されています。原子の真ん中にはプラス(+)の電気(正確には「電荷」。以下「電荷」」と表記)を持つ原子核があり、その周囲をマイナス(ー)の電気(電荷)を持つ電子が回っています。原子核が持つプラスの数と電子が持つマイナスの数は常にイコール。「プラマイゼロ」の状態になっています。
  • 自由電子
    通常、電子は何らかの束縛を受け、原子核の軌道上を回っていますが、中には束縛を受けずに自由に運動できる電子があります。それが自由電子です。自由電子があるかないかで、電気を通すか通さないかが決まります。

  • 導電体
    自由電子を持つ=電気を通す物質を「導電体」と言います。代表的な導電体は金属で、中でも銀が最も電気を通しやすいと言われています。一般的に使われる金属を、電気の通しやすさで順番に並べると[アルミニウム<金<銅<銀]となります。
  • 誘電体
    自由電子を持たない=電気を通さない※1物質を「誘電体」と言います。代表的な誘電体には塩化ビニール、ナイロン、塩化ビニリデン・ポリウレタンなどがあります。
    ※1直流電流が殆ど流れない

高周波誘電加熱の原理

「導電体(金属)」に電圧をかけると、電極に引き寄せられた自由電子は原子核を離れ、自由に動き回ります。この運動によって電流が生じることは先に述べました。

では、電気を通さない「誘電体(塩化ビニール等)」に電圧をかけた場合は、どのような反応が起こるのでしょうか? 導電体同様、すべての原子は電極側に引き寄せられますが、自由電子のように原子核から離れることができません。原子は一斉に同じ方向を向き、プラスとマイナスの方向が揃います。この現象を「誘電分極」と言います。

これを利用しているのが「高周波誘電加熱」です。電極のプラス/マイナスの入替えを高速で行うことにより、原子の向きを高速で変えることで原子の衝突や摩擦が生まれ、熱を発生させているのです。

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「誘電分極」をさらに深堀してみよう

高周波誘電加熱とは、「誘電体に高周波電磁界を加えると誘電体損失を生じて内部発熱する現象」です。

前述した通り、誘電体とは電気を通さない物質のことで、電流を通す導電体(導体)ではこの現象は起きません。この違いを生んでいる現象が「誘電分極」です。

「誘電分極」とはどのような現象なのか?

前述の通り「誘電体」に電流は流れませんが、電圧がかかると原子の中の電子はプラス側の電極に引っ張られます。これにより、分子は電子の偏った(引っ張られた)方にマイナスを帯び、その反対側にプラスを帯びます。

高周波電磁界の影響を受けている範囲全体でこの電子の偏りが発生し、プラスの電極側がマイナスの電気を、マイナスの電極側がプラスの電気を帯びます。

これが「誘電分極」と呼ばれる現象です。電圧のエネルギーは誘電分極に変換されます。導電体では自由電子の移動により、電圧のエネルギーは電流へと変換されます。

交流電流により、電極のプラスとマイナスは1秒間に数千万回も入れ替わるため、誘電分極もそれに合わせて追従しようとします。これにより誘電体の分子は激しく振動し、衝突や摩擦によって内部から発熱します。ですが、これはあくまでも“現象をとらえる為の概念”です。

「誘電分極」と「誘電体損失」の関係

では、「誘電分極」と「誘電体損失」との関係について、考察していきましょう。
誘電体が置かれると誘電体で分極が起き、誘電体表面の電荷が揃います。
そうした電界の変化に対して、分極した分子の追従が遅れることで「電力損失」が発生します。その電力損失が「熱」に変わります。
よって、「高周波誘電加熱とは、誘電体に高周波電磁界を加えると誘電体損失を生じて内部発熱する現象」となるのです。
誘電体の「誘電分極」は、高周波電磁界の変化に追いつけず、時間的に遅れる事で電流(I)と電圧(V)の位相差に90 度からδ 角のズレが発生します。

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高周波ウェルダーとは

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高周波誘電加熱によって熱可塑性樹脂の加工を行う装置

「高周波ウェルダー」とは、塩化ビニールなどの熱可塑性樹脂(誘電体)を高周波誘電加熱によって溶着、溶断する装置のことです。
日常生活品はもちろん、医療・工業用品など、幅広い用途に使用されています。

幅広く活躍する高周波ウェルダー

幅広い用途で活躍している高周波ウェルダー。身近なところでは、浮き輪やゴム手袋、テントやトラックの幌など、シート状の樹脂を溶着する際に使用されています。

自動車では、サンバイザーの表皮溶着や座席に貼られている警告シール(コーションラベル)の溶着に使用されており、医療機器では輸血バッグなどにも利用されています。オレフィン系の新素材の溶着、溶断も可能で、原理としては木材や接着剤の乾燥にも利用できます。

高周波ウェルダーの基本構成

高周波ウェルダーは、「発振器」にて高周波電力の供給を行い、「制御ボックス」にて溶着時間、冷却時間の設定や溶着時の電流値を確認することが出来ます。「プレス機構」に取り付けた「金型」にて溶着部に圧力をかけながら高周波電界を加える事で、樹脂の溶着を行います。

高周波ウェルダーの特長

高周波ウェルダーは、外部加熱方式(ヒートシール工法)などと比較して、溶着強度や外観の仕上がりに優れています。ヒートシール工法では、ヒーターにて加熱した熱板をシートに押し当てる事で溶着します。シート表面から熱が伝達するため、溶着に必要な温度以上に表面は加熱されます。

当然のことながらシート表面の溶融が最も早く、糸引きやバリなどが発生し外観を損ねます。また、冷却工程への切替時には、溶融した樹脂の固着前にシートを開放する必要があり、シワやヨレなどの歪みや溶着強度の低下につながる恐れがあります。

前述の通り、高周波ウェルダーは内部加熱であるため、溶着界面の温度が最も高くなります。また、金型自体は樹脂の溶融温度に達する必要が無いため糸引きなどの心配もありません。冷却のためにシートを開放する必要もなく、強度と外観を保つことができます。

高周波ウェルダーの特長を簡単にまとめます。

  • 誘電体内部が一様に発熱するため急速で均一な溶着ができます。
  • 内部発熱により、外部加熱(ヒーター、半田コテ)のように外観を損ねません。
  • 迅速な温度上昇が可能です。
  • シート物の大きい溶着や平面の溶着も可能です。

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高周波溶着の種類

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金型の形状で溶着方法が異なる

高周波溶着が幅広く用いられる主な理由は、様々な溶着方法に対応できることです。
ここでは代表的な溶着方法について解説していきます。

高周波溶着の主な形状

溶着物の主な形状は、「シート状のモノ」もしくは「チューブ状」のモノです。
重ね合わせた状態だけでなく、突合せ状態での溶着や同時にカットすることも可能です。

シートの重ね合わせ溶着

シートの突合せ溶着

シートの同時カット

チューブとシートの溶着

異径チューブの溶着

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溶着可能な材質

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溶着適性は誘電力率で決まる

高周波ウェルダーで溶着可能な材質は、電気を通さない誘電体で、温度によって液状と固体の状態の間を行き来する「熱可塑性樹脂」です。
高周波ウェルダー加工に適すか否かは「誘電力率」の数値で決まります。どのような素材が適正なのか、詳しく見ていきましょう。

高周波ウェルダーで溶着可能な材質

高周波ウェルダーで溶着可能な材質は誘電体であり、塩化ビニール(軟質・硬質)、塩化ビニリデン、ポリウレタン、ナイロン、フェノール、エポキシ、ABSなどがそれに当たります。

それぞれの熱可塑性樹脂は、ある温度で誘電力率(tanδ)が最大になり、高周波ウェルダー加工に適すか否かはこの数値で決まります。塩ビ系統が極端に優れ、ナイロン、ポリウレタンが可能な熱可塑性樹脂といえます。

また、電極(金型)にヒーターを取り付け、事前に温度を上げることにより誘電力率(tanδ)が上がり、溶着が可能になる場合があります。

絶縁シートの活用法

代表的な絶縁シートである「エンパイアクロス(布)」や「アベロン(紙)」は、高周波溶着では主に絶縁下敷として利用されます。溶着中のシートの電気絶縁破壊、一般的にはスパークと言われる現象を防ぎ、製品や電極・金型の破損を防止し、発熱したシートの熱伝導による下部電極となる定盤への熱の逃げを防ぐ役目もしています。

絶縁シートをうまく活用することで、誘電力率が低い薄い材料でも誘電力率が高い絶縁下敷きの加熱により、溶着が可能になる場合もあります。

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高周波ウェルダーの利用例

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美観を保ちつつ気密溶着が可能

高周波ウェルダーが作り出す製品は、日用品から医療用品、工業用品まで様々です。
ここでは代表的な利用例を示します。

「自動車」
  • サンバイザーの表皮溶着
  • シートやカーペット、サンバイザーへのコーションラベル溶着
  • カーペットへのエンブレム溶着
「医療」
  • 輸液バッグや輸血バッグの気密溶着
  • 各種チューブの溶着
  • サージカルガウンの外周溶着
「日用品」
  • テントや浮き輪など、気密と強度を要するレジャー用品の溶着
  • ワッペン、ビニール傘、ファイル関連、雪除けネットなどの溶着
  • ランドセルの背当ての同時溶断

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法的規制

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当社製品でご不明な点はお問合せください

「電波法第100条」に定められた該当設備の使用には設置許可が必要です。
また、2020年6月11日より電磁放射妨害波の規制値が国際規格CISPR11の値に強化され、電源端子におけるラインノイズ規制(電波妨害波)が加わりました。高周波溶着機の設置許可を受けずに使用した場合は、電波法違反となり、機器の使用中止、罰金、懲役などの罰則の可能性があります。

設置許可申請について

無線設備、通信設備以外の設備であって10kHz以上の高周波電流を利用して高周波エネルギーを発生させて、なおかつ50Wを超える高周波出力を使用する設備は、原則として総務大臣の設置許可を受ける必要があります(電波法第100条)。

また、2020年6月11日より電磁放射妨害波の規制値が国際規格CISPR11の値に強化されました。さらに、電源端子におけるラインノイズ規制(電波妨害波)が加わりました。

電波管理局への申請は装置の利用者が行うことになりますが、申請先や必要書類等に関してご不明点がありましたら当社にお問い合わせください。
必要書類は総務省のウェブサイトからダウンロードできますが、当社でご購入頂いたお客様には「装置仕様」を記入した申請書(申請書の添付書)をお渡ししております。
装置仕様の記入でお困りのお客様は当社営業担当へご連絡下さい。

CISPR11とは

CISPRとはIEC(国際電気標準会議)の特別委員会で無線障害を防ぐ為の妨害波に関する規格の略称になります。
2015年の6月11日を改定法案が承認され、超音波溶着機や高周波溶着機などの産業用機械は実施日まで5年の猶予期間が設定されました。従って2020年6月11日をもってCISPR11は完全実施となりました。
CISPRは、IEC(国際電気標準会議)の特別委員会で、無線障害を防ぐための妨害波に関する規格の略称で、「シスプル※」と読みます。(※ Comite international Special des Perturbations Radioelectriques)

高周波溶着機を不申請で使用した場合は?

使用申請許可を行わずに使用した場合は「電波法違反」となり、機器の使用中止を求められるばかりか、罰金もしくは懲役などの罰則があります。
場合によっては、総合通信局のウェブサイトに企業名が掲載される可能性もあります。
万が一、不申請で使用している機器がある場合は、速やかに申請を行ってください。(申請はユーザー様が行います)


※引用元:超音波工業会